意外にも知られていないAndersonの強みの1つにファイナンス分野があります。実務界でも学術界でも著名な教授陣が数多く在籍し、また卒業後ファイナンス分野に進む学生も比較的多いです。以下、特色あるファイナンス系のelective 授業について幾つかご紹介します。(※最新の状況と異なる可能性がある点、ご了承下さい)

 

Corporate Finance

必修科目のFinanceの応用という位置づけで、内容としては基礎的なvaluation技法やMM理論(最適資本構成)、Debt調達によるTax Shield効果、WACCの理論的解説と基礎的なValuation技法、リアルオプション、M&A、Corporate Governanceなど多岐に亘る内容をケースを通じて学びます。応用と言いつつも、基礎的な内容から体系的に学ぶことができ、Financeのバックグラウンドがない生徒も多く受講する人気授業の一つです。

 

Corporate Financial Reporting

このクラスでは、Financial statement analysis、つまり、会計制度に従って作られた数字が実際の企業活動とどのようにリンクしているのかを分析することが授業の中心です。扱われるトピックは売上・費用認識から年金、ストックオプションまで多岐に渡ります。ケーススタディが中心の授業で、実際の年次報告書やSEC Filingsを抜粋したものを使用しており、企業業績の分析の視点が学べます。また、業績関連ニュースを理解する際の感覚も身につきますので、最もビジネススクールらしい授業の一つと言えます。

 

Takeovers, Restructuring, and Corporate Governance

M&Aについて、一般的なM&AからDistress投資まで幅広く扱う、AndersonにおけるFinanceの授業で(おそらく)最もadvancedかつintensiveな授業。教授はHoulihan Lokeyのパートナーから複数のPEのパートナーを経て、その後Heathcare特化のPEを創業しており、業界第一線で活躍する実務家。毎週のグループケースは、3表連結のモデリングを行った上で、戦略的な視点、財務的な視点双方から深い議論を行う。加えて、毎週の授業テーマに沿うOn goingのM&A案件を纏めて提出する個人課題があり、更にその中から指名された生徒が1名、全体の前でプレゼンを行った上で、クラスでその案件に関するディスカッションを行う。この個人課題への取り組みとディスカッションはタフではあるものの、ケースが比較的古い案件に偏りがちになるというMBAにおけるケースディスカッションの欠点を補い、現実世界での適用についても考えさせられる良い仕組み。Finalは10週間で扱った内容を全て活用するケースを土台とした試験が課される。相当なリソース投下を必要とするが、それ以上に価値ある学びが得られる素晴らしい授業。

 

Venture Capital and Private Equity

VC、PEの基本的なビジネスモデル、投資プロセス、Valuationの技法等をケースを通じて学ぶ講義です。VCやPEがスタートアップの企業価値をどのように評価するか、という投資家の目線と、アーリーステージの会社がどのように資金調達戦略を組み立てていくべきか、という起業家の目線の双方を持ちながら、基本的にはケースディスカッション中心で授業が進められていきます。キャッシュフローが安定しない(あるいはまったく発生しない)アーリーステージの企業価値評価では、伝統的なDCF法は必ずしもベストな選択肢とは言えないため、複数の方法を組み合わせながら実際にどのように実務が行われているかを知ることもできます。10週間のうち、VC:PE = 6:4くらいの比重で取り扱われ、Valuationのモデリング技術より、コンセプトの理解を重視する構成になっていると感じました。

 

Managing Finance and Financing Emerging Enterprises

小規模企業の財務に焦点を当てた授業です。主にケースを中心に進められ、SWOT分析を通した定性的な企業の特徴の理解及び各指標分析を通して定量的に企業の財務状況の把握からケースは始まります。その上で、企業が抱える問題を診断し、最適な資金調達手段は何か、その他財政状況を改善できる手段はあるかということに議論は進みます。グループプロジェクトでは、新規ビジネスの財務モデリングを通して市場、コスト、収益等の分析を行います。教授は毎回コールドコールを多用しますが、それへの回答が評価の大半を占めます。そのため、学生はそれ授業前にはチーム内での議論でケースへの理解を深めておくことが求められます。

 

Sustainability Reporting

近年多く企業にとっての重要な課題となっているESGをはじめとするSustainability Reportingについて、各機関から要求されるフレームワークや企業が実際に取り組んでいる測定方法やについて体系的に学べる授業です。毎回授業の後半では実際にESGに取り組むゲストスピーカーのセッションがあり、そのバックグラウンドは事業会社やコンサルティングファーム等様々。グループプロジェクトでは実際の企業を2社選択して、MaterialityやData Quality等授業で習った概念を使用して企業のESGレポートを評価します。

 

Investment Management
アセットアロケーションのモデルについて、Mean-Varianceから始まり、その欠点を補ったEqual-weightedやRisk-Parityまで実際のデータを用いて学びます。加えて、Mean-VarianceからCAPMの繋ぎ、3ファクターモデル、タイムラグの導入、アルファの考え方について学習します。

 

Corporate Valuation

DCF (Discounted Cash Flow Method), Comparative Company Method, EVA (Economic Value Added) を使った手法など、企業価値評価の理論を体系的に学べるコースです。講義中心の理論学習と理論の適用を学ぶケーススタディのコンビネーションで授業は進められます。また、コースの最後には実際に企業を一つ選んでその価値評価を行うというグループプロジェクトが課されますが、必要なデータ収集から分析、キャッシュフロー予測、ディスカウントレートの算定、そして企業価値の算定という一連のプロセスを実践的に学ぶことができます。

 

Urban Real Estate Financing and Investing

不動産会社を実際に経営している教授が、自分の会社に来た案件をケーススタディとして取り扱い、不動産を買収するべきかどうかを議論する授業。プロの不動産投資家がどこまで考えて、将来キャッシュフローを作成するかについて、非常に参考になります。

 

Behavioral Finance

ファイナンスに行動経済学を組合わせた授業で、人の心理・行動がマーケットの動きにどのように影響するかについて、実際の事例も踏まえつつ様々な理論が紹介されます。例えば、Bad Newsに対して人々がどのように反応しそれが株価にどう反映されるかといったものから、サッカーの試合結果の影響といったものまで、通常のファイナンスの理論だけでは説明が難しい投資家の心理的なバイアスについて幅広く学ぶことができます。

 

更に、授業の他にも、Corporate FinanceのCertificateを管理する施設であるThe Laurence and Lori Fink Center for Finance & Investments (通称Fink) が、ファイナンス関連のスピーカーシリーズやワークショップなど様々なイベントを開催しています。Finkの公式サイトはこちらです。