capstone projectとは、Andersonでの学生生活の集大成と呼ぶに相応しい、6ヶ月に及ぶ卒業プロジェクトで、学校の看板プログラムとなっています。2年間学んだ知識やネットワークをフル活用しながら5人1組で一つの成果物を作り上げるのはタフですが、MBAの集大成に当たるやりがいに満ちたプロセスです。多くの学生はApplied Management Research (AMR)と呼ばれるコンサルプロジェクトとBusiness Creation Program (BCP) と呼ばれる起業プロジェクトのどちらかを選択しますが、近年それ以外のオプションも増え、選択肢に幅が出てきました。ここでは、それぞれのプロジェクトの中身や作業について、簡単にご紹介したいと思います。
Advanced Management Research (AMR)
国内外の実在企業のプロジェクト等へのコンサルティングを行います。内容は米国企業相手のプロジェクトも他国企業相手のプロジェクトも両方存在するほか、企業サイズはスタートアップからグローバル大企業まで、コンサルティング内容もマーケティング戦略、商品開発戦略、HRなど多岐にわたります。担当教官の指導のもと顧客企業と連絡を取りながらResearchを進め、最後は分析結果に基づく提案内容を企業にプレゼンするというものです。最終プレゼンは、顧客の代表者や関連する業界・分野のプロフェッショナルに見守られる中、実際のコンサルティング企業の業務さながらの緊張感の中行われます。他国企業とのプロジェクトでは、実際に現地まで行って打ち合わせを行うことも多々あります。顧客企業については、学生が独自にコンサル先を探してくるか、または学校に企業から寄せられるプロジェクトからマッチングを行うかになります(後者の方が一般的です)。
例えば過去には以下のような企業とのコンサルティングプロジェクトが存在しました。
Bank of America, Disney Internet Group, Hewlett-Packard Company, Johnson & Johnson, Mattel, Inc., Microsoft Corporation, The North Face, Sony Pictures Entertainment, Starbucks Corporation, Twentieth Century Fox, Xerox Corporation, Yahoo Inc.
例えば過去に日本人が取り組んだプロジェクト内容としては下記のようなものが存在します。
Pre-seed期かつプロダクトローンチ前のB2B SaaS スタートアップのGo-to-Market Strategyの立案・提案を行いました。顧客企業は米国スタートアップで、プログラミングコード内のエラーを検出するスタートアップでした。プロダクトローンチ後の製品拡販に向けて、ターゲット顧客セグメントが有するニーズやSaas導入に当たっての必要要件の洗い出し、競合他社分析を通じた顧客企業としてアピールすべきコアバリューの明確化、ネクストステップとのその時間軸といった事項について、整理、検討および提案を行いました。テクニカルな事業だったので、そもそもの事業理解にチーム一同非常に苦しんだことは言うまでもなく、加えて、ニッチな顧客セグメントから生の声を集めるべくコールドメールやカンファレンスに突撃して片っ端から声をかけまくる等、泥臭い取り組みも求められるプロジェクトでした。しかしながら、これからプロダクトをローンチして事業を成長させていこうという起業家と伴走できたことは講義ではカバーしきれないEntrepreneurshipの実践という意味で非常に意義深かったと思っています。
Business Creation Project (BCP)
学内外のあらゆるリソースを用いて、新規事業の立ち上げに向けた準備を行います。事前に応募段階でビジネスプランの審査があり、BCPを選択する上での必須講義であるEVI(Entreprenurship and Venture Initiation)・BPD(Business Plan Development)の中で作ってきたプランを基にBCPの履修が認可されます。EVI・BPDはBCPの受講の前提条件(チームの過半数が履修を完了している必要有り)であるのみならず、各授業におけるグレードも審査には影響してくるようなので、BCPの受講を希望される方は1年生の段階から計画的に授業の履修・チーム編成を考える必要があります。BCPは「プラン作り」ではなく、実際の「ビジネス作り」にフォーカスするため、MVPを作って顧客にインタビューをしてみたり、実際にポップショップを出して集客してみたりと、実際に「マーケットと対話すること」や「プロダクトを作ること」が求められます。最終プレゼンは、対VCのpitch形式で行われ、実際にそこから起業・資金調達に至ったチームも過去幾つも輩出しており、アントレに興味をお持ちの方にはかなりオススメのプログラムです。
Others
AMRとBCP以外のコースは毎年新設・廃止されることがありますが、Capstone projectとして以下のプロジェクトも選択することができる他、直近では"Area-Focused Capstone”と呼ばれるより分野や業界に特化したCapstoneも開始しました。いずれのプロジェクトも選抜制となっていますが、挑戦する価値のあるものになっていると思います。詳しくは公式サイトのこちらをご確認ください。
【従来から存在する選抜制Capstone】
Student Investment Fund (SIF) - 10名の学生で、実際に$2Mのキャピタルを株式・債券市場で運用するプロジェクト
Anderson Strategy Group (ASG) - 主にコンサル業界に進む人向けの、AMRよりもより本格的なコンサルプロジェクト
Anderson Student Asset Management (ASAM) - 約15人 1チームで約30万ドルを実際に運用する資産運用の実践クラス
(体験談)約15人が1年の春から2年の春まで、1チーム当り約30万ドルを実際に運用するという資産運用の実践クラスです。週1回2時間ほどミーティングを行うほか、企業訪問、ゲストによるレクチャー等もあります。1年の冬に希望者は申込を行い、書類・面接審査を経て選定されます。倍率は3~4倍。SIFの個別株ボトムアップ運用とは違い、ASAMはクオンツ運用を行います。運用戦略を学ぶ一方で、売買・運用成績管理・企業訪問・寄付募集等を通じ、実践的なスキルも身につける事も出来ます。なお、担当教授の授業があるわけではなく、原則として自分達で先輩や文献等から自主的に学び、実践するというスタイルとなっています。
NAIOP Real Estate Case Competition - 6ヶ月かけて、与えられた不動産の評価と開発計画を行うケースコンペ
【Area Focused Capstone】
年によって開講されているプロジェクトはまちまちですが、例えばアフリカのNPOにコンサルティングを行う”Social Impact Consulting”や企業と共同でより高度なデータ分析プロジェクトを行う”A/B Testing”、はたまたベンチャー投資を行う”Venture Investment”など分野は多岐にわたります。それぞれ当該分野を専門とする教授と共同で進めていく形となります。以下はその内の一つである”Entertainent and Sports analytics”に参加した日本人学生の体験談です。
エンタメorスポーツ分野でデータ分析をどう扱うかを主題としたレクチャー&グループワークベースでのCapstone Project。2学期に渡るプロジェクトで1学期目は週1回の授業に出席して、データ分析のイロハからエンタメ&スポーツでどのように活用されているかをレクチャーとゲストスピーカーから学びました。ゲストにはNetflixのデータ分析チームのリーダーからNFLでデータ分析を用いて選手をリクルートしている方まで様々です。2学期目はグループでエンタメ&スポーツ分野に応用可能な予測モデルを作成します。私たちのグループはNetflixが公開しているGlobal rankingのデータに様々な変数を加えて重回帰分析を作成しました。教授とのミーティングが2週間に1回くらいのペースでありますが、それ以外は生徒主導で進めることになります。また1学期目は課題がほぼないので比較的楽でした。チームの選抜に当たって、resumeやエッセイの提出が必要なのでエンターテイメントバックグラウンドを有している人ややpost MBAで同業界を狙っている人と組むことをお勧めします。データ分析を行いますが、プログラミングの知識はなくても大丈夫です。私はPythonを1から学びつつ、ChatGPTに(かなり)助けてもらってチームに貢献しました。